農業ファラシー

農業における誤謬(ファラシー)を中心に。

儲かる農業

 

儲かる農業―「ど素人集団」の農業革命 (竹書房新書)

儲かる農業―「ど素人集団」の農業革命 (竹書房新書)

 

  手元にあるのは、2009年の単行本版であるので異同があるかもしれない。

 

「儲かる農業」は健康か?

 

 早朝の作業が一段落すると、プラスチックケースをひっくり返しただけの簡単なテーブルに食パンとコーヒーを並べ、簡単な朝食会が始まる。食パンにはさむのは、もちろん採れたてのレタス。たっぷりと何枚も重ね、その上にハムやスライスチーズを乗せ、マヨネーズをつけてサンドウィッチにする。(『儲かる農業』p24)

 コンビニやハンバーガーチェーンで多くの日本人がトップリバー社のレタスを食べているだろう。https://www.topriver.jp/image/index_sp03.jpg

 トップリバーのサイトから青々としたレタス。

 だれが栽培したものであれ、消費者はその栽培過程に責任をとるべきと私は考える。

 あなたが日頃、自分のみならず家族に食べさせているレタスの履歴の話だ。

私は腎臓が悪く、週に三回ほど近くの病院で人工透析を行っている。

(前掲書、p186)

 それでいいなら、そうするがいい。

http://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0022/G0000634/0061

 

 おいしくて健全なレタスは、白く軽いもの。肥料浸けにすれば、青くて重いものができるし、回転もよくなる。年2回転を4回転にすれば、単純に売上は倍になる。重ければキロで売るから、一玉あたり単価が増える。青ければハンバーガーなど加工したときに見映えがいいから高く売れる。それでいいなら、そうするがいい。勝手にしたらいい。本当にあなたがたの健康を考えている農家をバカにし続けろ。

 

 本当に「儲かる農業」は儲かっているか?

 

嶋崎秀樹のひどい講演。

農業業界で利益率10%というのは殆どいません。

または、

大半の農家は儲かっていない(前掲書、p171)

はまったくのウソだ。

https://www.pref.nagano.lg.jp/nogi/keiei/documents/keiei_list.pdf

 は、トップリバーと同じ長野県の農業所得の表。

 野菜の所得率(農家では利益=所得)で10%を下回るほうが難しいのがわかる。ウソしかつかない卑しい本性が窺えるだろう。

 他方、

二〇〇八年度(平成二〇年度)には、一〇億九〇〇万円を売り上げることができた。 (p45)

とある。100haで10.09億。反収(1000平米あたり売上)にして100.9万は確かにレタスでは驚異的な数字だ。ふつう、その1/3がいいとこだろう。ただ、反収100万は大したことではない。ナスでは農協に売りっぱなしでも、兼業でも、有機でも、100万を下回ることは絶対あり得ない。100万売上なら5トン採れればよいが、いまは品種改良のおかげで7トンは嫌でも採れる。

 

 

「儲かる農業」は一般企業の常識を農業に取り入れたか?

 労働問題の側面から。

第一次産業というのは1週間に6日7日、1日15時間働いても、労働基準監督署が怒らないという特別ルールもあるくらいです。これが今の農業の現状なのです。

36協定のこと。これは労務管理の大切さを説き、ブラック企業を排除する発言に思われそうだ。が、一方、

350日は働く、年間に5000時間以上働く、という方がいたら90%以上成功するでしょう。

や、

 五月から一〇月にかけてはトップリバーの主力商品であるレタスとキャベツの収穫に追われることになる。(p24)
 毎日出荷するケース数は決まっており、その数をクリアするまでは作業は終らない。出荷数は毎年伸びているので、ピーク時はまさに早朝から日が暮れるまで野外での収穫作業が続く。
 夕方、ノルマをクリアした従業員たちは事務所へと戻ってくる。日に焼けた赤い顔に疲労の色が浮かんでいるが、これで仕事が終ったわけではない。農場での作業が終わると、班長を中心に明日の作業の確認などのミーティングを行い、さらにその日の出荷数や状況などのデータをパソコンに入力したり、業務日誌をつけるなどのデスクワークが待っている。
 完全に仕事が終わるのは、早くて七時、遅ければ八時、九時になってしまう。(…)
 夏場のレタスの収穫時になると、仕事は朝の四時から始まる。(…)二週間休みなしに働くということも珍しくない。(p185)

という記述。

 4時~9時までというから、一日16時間。二週間で224時間。法定労働時間は二週間で80時間だから、残業相当が、144時間。

 月に100時間を超過する残業は「過労死ライン」だが、半月せぬうちに超過する。それは、いわゆるブラック企業ではないのか?

 チェーン店や生協、また、テレビ東京カンブリア宮殿」が、これをよしとしているわけだが、看過していいレベルか?

 

農家は数字の管理が出来ません。P/Lとか、B/Sとか、全然わかっていません。私は、農業業界を本当に助けてくれるのは東大、京大を出たような人達だと思っています。東大、京大というのは比喩表現で、要するに頭が良くて心がある人という事です。

一方、

今1番成果を出しているのは中卒の子です。

 と、終始むちゃくちゃだが、そもそも貸借対照表損益計算書ができる程度で賢いという知的水準の低さは群を抜く。

 

 

 「儲かる農業」は本当に補助金だのみではない?

 

http://www.town.miyota.nagano.jp/file/8855.pdf

 では、

 トップリバーの予冷庫への交付金支出

とあり、 総事業費4752万円のうち二分の一が交付対象。また、


f:id:agri-ka:20180204234201j:image

では、収入の減少分を交付金として乞うている。補助金をもらわないのではなかったのか?それとも交付金だから補助金とはちがうとでもいうのか?


f:id:agri-ka:20180204232915j:image

では、農水省から600万円の交付金
f:id:agri-ka:20180204233402j:image

では、900万円の交付金
f:id:agri-ka:20180204231859j:image

では、141万円の交付金補助金をもらっている。

 補助金は悪くないが、

 補助金をうけて守られているから農業はだめだ。

と言っていた人が受けている補助金だ。醜悪ではないか?シンプルに気持ちが悪い。

 

 

において、

嶋崎社長は「秘訣はあるが、秘密など何もない」と言う。

ならば、補助金を受け取っていないフリもやめて、きちんと経営指標を公開すればよい。以下にみるように、マニュアルを公開するとまで言うのだから。できないのは後ろ暗いのか、やっぱりウソか、いずれにせよ、まともな理由などないだろう。

 

 

 

「儲かる農業」の裏に差別心はないのか?

 

 言うことを聞いてくれない農家(太字)
私はある種の苛立ちをつのらせていくことになる。というのも、農業という産業が古くさい慣習に縛られていることを肌で感じていったからだ。 (同上、p32)
 今までのやり方を変えることに強い抵抗感を示す。新しい道を切り拓いていこうと考えない。それが、昔も今も変わらない農家の姿勢なのだ。 (p34)
 農家出身者よりど素人のほうがうまくいった(太字) (p35)
 農業は旧態依然とした産業である。長年、同じやり方を続け、それにしがみついて今日までやってきた。それは仕方のない面もある。戦後の農地解放からはじまって、農業は常に規制と公的援助でがんじがらめに縛られてきた。新しいことに挑戦しようにも、何をすればいいのかわからないという状況が長らく続いてきた。そんな状況に置かれれば、誰しも改革への意欲は失われてしまうだろう。 (p41)
 従来の既得権を守ることだけに目を奪われて、新しいビジネスチャンスを開拓しようとしない。農業のじり貧は、ある意味で農家自身が招いたものではないだろうか。
 私が幸運であったのは、そうした既存の農家の固定観念や常識、慣習と無縁であったということだ。農業への新規参入者であったこと、そして農業経験のないど素人であったことが、かえって私に自由を与えてくれた。 (p42-3)

 自分の裏寒き、根拠なき自尊心を昇華してくれる、最も簡単な方法。それは、他者を蔑み、未開と断じ、“守旧的なさま”を悪しざまに罵り、下に置くことだ。

 

  私がめざしているのが、二〇一二年(平成二四年)までにトップリバーの人材育成システムやノウハウをマニュアル化するということである。(……)これを農林水産省経由で全国に配布してもらうのである。

 マニュアルが全国の農業全体に広まり、やがてこのやり方を言いだしたのが誰なのかわからないぐらい、私のつくったマニュアルが一般化する。誰が考えたやり方というのでなく、誰もが当たり前のように「儲かる農業」を実践する。そんな時代が来るのを私は願っている。 (p130)

(前掲書、p130)

 こんなものは、パラノイア以外のなにものでもない。迷惑だ。