農業ファラシー

農業における誤謬(ファラシー)を中心に。

はじめに答えありきの農業論は、暴力だ。

 

 

 

 出版時点ですでに死語だったスローフードを取り上げている。

 

 スローフード発祥の地であるうえ、ファシズム発祥の地であるからというだけで、安直にスローフード=左翼的全体主義を導く。
 しかし、軍国主義発祥の地である鹿児島はサツマイモの一大産地であるから、イモを食うやつは軍国主義者であるというバカがいるだろうか。
 部分を全体で喩え、その全体を別の部分で喩えるという再置換法的詭弁。
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 だいたい、スローフードを左翼レッテルにしたいのか右翼レッテルにしたいのか、揺れすぎ。

 

有機=反グローバリズム


 有機肥料の施用が増えた背景は決して速水が言うように反グローバリズムの影響ではない。
 有機肥料の施用が国内で大々的に奨励されたのは1984年の「地力増進法」からである。これはスローフードがイタリアで主張されはじめた1986年より前であるし、グローバル化より前でもある。ましてスローフードの概念が日本国内に輸入されはじめたのは21世紀になってからなので、どうにもならない時代的錯誤がある。
 もともと有機肥料が推奨されたのは、作物にとって最重要視されるチッ素が、化学肥料としては石油精製物であることに起因している。つまり、オイルショックの影響で未利用堆肥の施用を奨励しなくてはならなくなったのだ。


有機=左翼?


 また、1983年時の政権はタカ派としてしられた中曽根内閣である。左翼政権ではない。
 イタリアは簡単に右左で分けられない政治風土がある。たとえば、五つ星運動は右か左か、のような。スローフード運動も同様である。

 成田闘争の特異性としてあるのが、右翼も参加していたことだ。なぜ右翼活動家が参加したかといえば、空港建設予定地にはもともと天皇家御料牧場があったからだ。そこでは、有機肥料・堆肥が施用され化学肥料は忌避されていた。左翼はといえば、反権力のほうに夢中だった。
 それもそのはずで、元来、農業における化学肥料や農薬や大規模化や組織化や科学技術利用といった題目は、社会主義国(もちろん右も左もあるが)においてこそ推奨されたものなのだ。

 

「フード右翼」による民主化はあるか?


 速水はジャンクフードを好むフード右翼(語彙センス死んでんのかよ)が、むしろ民主主義を加速させるという。
 だが、それは民主主義とは関係がない。その意見に立脚すれば、中国のマクドナルドと日本のマクドナルドが根本的に異なることになるが、それは問題の外部性と内部性の混同に過ぎない。マクドナルドのハンバーガーを食べることそれ自体は中国が民主化されるか否かとはなんらの関係もない。もし、食を通じた投票行動、なるものを信じるなら、それはフード左翼と呼ばれるべきだろう。
 北朝鮮マクドナルドがないのはマクドナルドによって民主化されていないからではなく、民主化されていないからマクドナルドの出店が認められないだけである、なんて当たり前のことをわざわざ言わせないでほしいものだ。
 シンガポールの人口あたりマクドナルド出店数は多いが、シンガポールは民主主義国ではない。一党独裁どころか王朝化してきている。

 

各国マクドナルド出店数のリンク